« 今日のニャンコ | トップページ | 身近にこんな奴はいない…いないと言ってくれ »

HAL記事の補足

 本誌サイエンスウェブでは、山海教授の人となりに焦点を当てて記事を書いた。ここでは補足的な意味で『ロボット・スーツHAL』の技術的な側面について少しだけ解説を加えようと思う。

HAL  ロボット・スーツHALに関しては、これまでも多くのテレビや雑誌などで取り上げられており、外観や機能に関しても知っている人も多いだろう。簡単に言ってしまえば、人間のパワーを補助する外骨格ロボットだ。外骨格ロボットといえば、ハインラインの『宇宙の戦士』に登場するパワード・スーツ(*1)を思い浮かべる人もいるだろうが、パワード・スーツのように人間が着る、あるいは人間を包み込むタイプではなく、むしろ映画『エイリアン2(ALIENS)』に登場したパワー・ローダーに近いイメージだ。エイリアン 2 完全版

ただし、建設機械のようなシルエットを持つパワー・ローダーよりもシンプルなデザインで、手足の動きを補助するため最低限の骨格を持っているだけだ。現時点ではそれで十分、というより人間を補助するという機能を考えれば当然の帰結だろう。(将来的にどのような形に発展していくのか・・・それはまた別の楽しみだ)

 さて、HALはこれまで述べてきたような骨格と、関節を持っている。各関節には1つのモーターと2つのセンサーが取り付けられている。センサーは筋肉を動かす際に発生する電気信号を拾い上げモーターを動かすのだが、この時、決して筋肉よりも先にモーターが動くことはない。あくまで人間の動きを補助する装置なのだ。(だから、力持ちにはなれても、早く走ることはできない)
 実は、筋肉に伝わる電気信号をピックアップする、というアイディアがポイントで、例えば足が動かない人でも、足を動かそうとする電気信号さえ正常に拾えるなら、(動かない)足の筋肉の代わりにHALのモーターが足を動かすことができる。以前行われた実験には、足の不自由な人がHALを装着し歩けるかどうかというものがある。この実験は、当初うまくいかなかった。その原因は、足を動かすための電気信号に乱れがあったためと判り、健常者のデータを利用して信号を補正することで、被験者があるけるようになっている。
 このように、足なら足、腕なら腕を動かす筋肉(を動かす神経)があれば、HALによる補助が可能になる。では、一歩進んで筋肉を動かす信号をもっと上流、つまり頚部や大脳直下で拾うことができれば、手足を失った人でもHALによって動くことができるようになるのではないだろうか?(*2)この点について、山海教授に質問をぶつけてみた。答えは否定的であった。ひとつは、頚部の神経線維が人体の奥深くで骨に守られているため、電気信号を拾うことが難しいこと、たとえ電気信号を拾えたとしてもそれは『狭い廊下を大声を上げながら走っているようなもの』であり、それが腕なら腕、足なら足を動かす命令であるかどうかを判別することが難しいというふたつの理由からだった。
 HALの開発に当たっても、この信号のピックアップは苦労したようだ。個人的には、技術の進歩によりこのふたつの問題点もクリアされるのではないかと期待している。

山海教授  HALに対して、山海教授が意識している問題点に軍事利用・武器への転用ということが挙げられる。人間のパワーをモーターで補助するHALを使えば、人間では持ち上げられない物体を軽々と持ち上げることができるようになる。実際、災害現場でのレスキュー活動への利用も考えられている。だが、パワーがあるということは、簡単に武器への転用が可能ということにもなる。リアル・パワード・スーツだ。
 そのため、HALは販売せずにリースのみとなる。また、盗難され解析される場合に備えて制御系をASIC化してセキュリティ機能を付加するなどの対策も講じるという。

 現時点での課題としては、バッテリーの継続時間と装着者ごとに調整が必要ということだろう。モーターの効率化などにより、実験機よりはかなり消費電力は抑えられ、連続使用時間も延びたが、介護の現場を想定したとき半日程度の活動時間は欲しいところだろう。また、個々の人間に体格差があることを考えれば、ひとつのモデルですべての人間に対応できるとは思えない。装着者ひとりひとりに合わせたカスタマイズモデルと、ある程度機能は落ちるものの万人が利用できる普及モデルに分かれていくのかもしれない。

*1
 『機動戦士ガンダム』に登場するモビル・スーツの元ネタが、パワード・スーツであることは有名な話。また、「宇宙の戦士」の映画版『スターシップ・トルーパー』では、パワード・スーツのアイディアはオミットされており、単なる未来ミリタリー物になっている。個人的には残念。

スターシップ・トゥルーパーズ

*2
ミクロ・パーク創元SF文庫 J・P・ホーガンの『ミクロ・パーク』では、頚部の神経から信号をピックアップし、ミクロ・ロボットを自分の分身として操作するというアイディアが使われている。

« 今日のニャンコ | トップページ | 身近にこんな奴はいない…いないと言ってくれ »

サイエンス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/38977/8646356

この記事へのトラックバック一覧です: HAL記事の補足:

« 今日のニャンコ | トップページ | 身近にこんな奴はいない…いないと言ってくれ »